【 おしゃべりさんと無愛想 】
作者:てっそ

<概要>
 ある日の飲み会の帰り、双葉は終電を逃してしまう。
 野宿を避けるため、大して親しくもない康成の家に泊めて貰うことに。
 しかし康成の部屋は予想通り汚くて…。

<登場人物> (男:2 女:2 計4人)
・細木康也(22/♂)
 メガネにほくろで、髪はいつもぼさぼさ。
 ぼさーっとした感じで、女は苦手。

・近藤双葉(23/♀)
 ミディアムふわゆるパーマの元気っ子。
 映画・ドラマ好きで世話好き。

・尚美(23/♀)
 双葉の友達。

・明(22/♂)
 康成の友達。

<配役>
細木康也(♂):
近藤双葉(♀):
尚美(♀):
明(♂):


繁華街、夜。飲み会を終え、店の前でたむろする若者たち。
SE『雑踏』
001 M康也「旨いビール。揚げたての串かつ。見た目そこそこの女子大学生」
002 明「この後どうする?」
003 尚美「ごめん、あたしそろそろ帰らないと。じゃあねー」
004 M康也「串は旨かったが、やっぱり来るんじゃなかった」
005 明「待って待って、送ってくからー」
遠ざかる2人。
006 康也「(軽いため息)じゃ」
007 双葉「あ、うん。またね」
SE『歩く音』
後ろの方で、小さく
008 双葉「あっ、嘘っ。やばっ」
康也、気にせず歩く。
009 双葉「ヤスくーんっ」
010 M康也「聞こえない聞こえない」
小走りで追いかける双葉。
011 双葉「ヤスくん。ちょっと待って、ヤスくんってば!」
康也に追いつく双葉。
012 双葉「へへ、電車代、貸してくれないかな」
013 M康也「なんだコイツ。面倒くさ」
財布を出す。67円しかない。
014 康也「ない」
015 双葉「えー、どうしよう絶望的だよ」
016 康也「じゃ」
歩き出す康也、後をついてく双葉。
SE『2人の歩く音』
017 双葉「今日どれが一番美味しかった?あたしはね~、うん。砂肝かな」
018 双葉「にしても尚美も酷いよねぇ、先に1人で帰っちゃうんだもん」
019 双葉「明くんって、尚美の事狙ってるのかなぁ」
020 M康也「うるさいな…」
021 双葉「ねぇねぇ、ヤスくんはどうしていつも髪ボサボサなの?」
双葉、康也の頭に手を伸ばす。
康也、立ち止まって手を払う。
022 康也「触るな」
023 双葉「あ…ごめん」
024 康也「何処までついてくる気」
025 双葉「んー…。お金ないし、ヤスくん家大学から近いし、一晩泊めて欲しいな~、なんて。お願い!野宿は避けたいの!」
双葉、手を合わせる。
026 康也「…(溜め息)」
鉄製の階段を登り、ドアを開ける。
027 双葉「お邪魔しま~す」
電気をつけると、ゴミと洗濯物が沢山。
028 双葉「おおう、コレは中々…。男の一人暮らしって感じだね!」
029 康也「俺の邪魔だけはするなよ」
030 双葉「うん、分かった」
康也、ネットゲームを始める。
双葉、手持ちぶたさ。
031 双葉「…ねぇ。何やってるの?」
032 双葉「なんか凄いクリックしてるけど」
033 双葉「(ため息)あっ、そうだ!一宿一飯の恩義ってワケじゃないけど、ここ片付けてもいいかな」
康也、ピタっと動きが止まる。
034 康也「しなくていい」
035 双葉「ゴミとか捨てるだけだから。引っ掻き回したりしないようにするからさ。ね?」
036 M康也「それで静かになるならいいか…」
037 康也「…勝手どーぞ」
ゲームを続ける。
038 双葉「よぉし!」
双葉、片付けを始める。
039 双葉「あ、DVDデッキ発見!ねね、後から見てもいい?」
040 康也「は?」
041 双葉「だから、DVD」
042 康也「盤、ないけど」
043 双葉「ふっふっふ…それがあるのです!じゃじゃーん♪ちなみに本日の金欠の犯人だったりする」
044 康也「…静かになんの?」
045 双葉「え?」
046 康也「だから、お前はそれ見てれば静かになんの?」
047 双葉「ん~…そうだね!」
048 康也「じゃ、見れば」
049 双葉「(嬉しそうに笑う)」
050 M康也「結局この日、この女が静かになる事はなかった」
 
大学、構内。
051 双葉「尚美先帰っちゃうからさぁ。あ、ヤスくんだ。おーい、ヤスくーん」
052 M康也「げ…」
053 双葉「ちょうど良かった、今日さぁ帰り寄りたいんだけど、いいかなぁ?」
054 康也「?どこに」
055 双葉「ヤスくん家」
056 尚美「えーっ、なになに、アンタらそういう関係なの?!」
057 康也「断る」
058 双葉「お願い!どーしてもブルーレイで見てみたいのがあるの!」
059 M康也「だからってなんでウチなんだよ…」
060 康也「…そっち、持ってないの」
061 双葉「尚美はブルーレイどころか、デッキも持ってないの。PCで見るなんて邪道よ」
062 尚美「ね、どこまでいったの?C?それ以上?!ねぇねぇ」
063 双葉「ねーお願いっ。お礼にご飯買ってくから!ねっ?ねっ?」
064 M康也「ああもうウルサ―――飯か」
065 康也「…今回だけだぞ」
066 双葉「やったーーーーー!」
067 M康也「別に飯に釣られたわけじゃないぞ」
 
康也宅、夕方。
双葉、カレーを作る。
068 双葉「~♪(鼻歌)」
069 M康也「この匂いは…カレーか。にしても…」
康也、部屋を見渡す。
070 M康也「えらく綺麗になったもんだ。本当に俺の部屋か?」
071 双葉「お待ちどう様~。はいよ、双葉ちゃん特製カレー一丁!」
072 康也「おう」
康也、カレーを食べる。
それを見てる双葉。
073 康也「なに」
074 双葉「辛さ大丈夫?」
075 康也「おう」
076 双葉「いただきまーす」
077 康也「…食って、見たらさっさと帰れよ」
078 双葉「あいあいさー」
 
大学、食堂。
康也、明と食べてる。
079 明「なぁ。お前最近双葉ちゃんと仲良くね?」
080 康也「別に」
081 明「この間タヌキが言ってたぞ?双葉ちゃん、お前ンとこに入り浸ってるらしいじゃん。このうっ、羨ましいっ」
082 康也「…(ため息)」
083 M康也「あの日以来、あの女はDVDを見にウチに来るようになった。部屋もどんどん片付いて、今では妙にこざっぱりしてる。正直、落ち着かない」
084 双葉「あ、ヤスくん見つけた」
085 康也「げ」
康也、立ち上がって足早にトレイを片づけに行く。
086 双葉「あ、ちょっと待ってよ」
双葉、追いかける。
087 双葉「この間のドラマの続き、我慢してたんだけどやっぱり気になっちゃってさ。今日ダメかなー?あ、また髪跳ねてるよ」
088 康也「触るな。お前な、いい加減にしろ。迷惑なんだよ。もう俺の生活に入ってくんな」
康也、去る。
双葉、少しだけ泣きそう。
089 明「「…双葉ちゃん?大丈夫?」
090 双葉「…うん」
091 明「良かったら、ウチで見る?DVD」
双葉、ぱっと切り替えて明るく、
092 双葉「ううん、大丈夫。ありがと」
 
093 M康也「あの女の姿を見なくなって一週間。毎日静かな日々が続いている。勿論俺も心穏やかに―――」
SE『ガタンっと物が落ちる大きな音』
094 康也「(イライラしながら)ない。ない。ここにも。何処いった」
SE『音を立てて歩く』
095 M康也「…とはいかなかった。あの女―――近藤双葉が綺麗に片付けたせいで、今や何がどこにあるかサッパリ分からない」
096 康也「あーもう面倒くさい」
康也、紙切れを拾い電話をかける。
097 康也「080-549…」
中々でない双葉。
098 双葉「もしもし?」
099 康也「お前PCンとこにあったノートとファイル、どこやった」
100 双葉「ヤス、くん?えっと…確か本棚の左端にいれたかな。上の段。ごめん…」
101 康也「ああ、あった」
102 双葉「あのっ。…色々、ごめんね。もう迷惑かけないから」
103 康也「…。(溜め息)デッキ、買ったの」
104 双葉「?ううん。お金ないから。貯まるまでは見るの我慢かな」
105 康也「そ」
106 双葉「うん」
107 康也「…。たまになら。いいぞ」
108 双葉「え?」
109 康也「DVD」
110 双葉「ホント…?」
111 康也「おう」
   
   end
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