【 雨のち晴れ 】   ※てっそがボイスドラマにしてます。詳細はこちら
作者:てっそ

<概要>
 ユイは夫と共にバーを経営していた。しかし、突然夫が失踪してしまう。
 帰りを待てど時間ばかりが経過し…。

<登場人物>
・ユイ(30/♀)
 バーのオーナーであり、現・マスター。

・ハヤミ(28/♂)
 店の常連で週2回、水曜日と土曜日に来ている。
 ユイに思いを寄せている

・アキヒコ(?/♂)
 元・マスターで、ユイの旦那。女と煙草好き。
 5年前に失踪しており、現在もなお行方不明のまま。

・てがみ屋
 その名の通り、手紙を配達する人。
 人と接する時はいつも営業スマイルで、慇懃無礼な節がある

<配役>
 ユイ♀:
 ハヤミ♂:
 アキヒコ♂:
 てがみ屋:
 客♂:


○喫茶店
<SE:雨の音>
001 Mユイ「あの人がいなくなった日も今日みたいに春雨が降っていた」
002 ユイ「今頃ドコでどうしてんだろ…」
<SE:カランカラン/ドアベル>
<SE:店内BGM>
003 ハヤミ「こんばんは」
004 ユイ「あぁ、いらっしゃい…」
005 ハヤミ「なんだか元気ないですね。どうかしたんですか?」
006 ユイ「ん? ううん、なんでもない。もう土曜日なのね。一週間が早いわ〜」
007 ハヤミ「あはは、それ言ったら年取った証拠ですよ」
008 ユイ「あら、失礼ね」
009 ハヤミ「僕も人の事言えませんけどね(笑) あ、いつもやつの下さい」
010 ユイ「はいはい」
<SEお酒を作る音>
011 ハヤミ「そういえばこの間行ったイタリアンのお店、ランチメニュー変わったみたいなんですよ。また今度一緒に行きませんか?」
012 ユイ「あ〜、いいわね〜。あそこ美味しかったもんねー。でもいいのー?たまには彼女といきなさいよ?」
013 ハヤミ「いないもんはいけませんよ(笑)」
014 ユイ「こんなオバサンばっかり誘ってー」
015 ハヤミ「いやぁ僕はユイさんと行きたいですw」
016 ユイ「あらそう? ありがと。はい、おまちどうさま」
017 ハヤミ「どうも」
<SE「店内ガヤ フェードイン>
018 客「ユイちゃん、お会計いいかな」
019 ユイ「えぇ。えっと…全部で6,100円になります」
020 客「じゃあ7,000円で」
021 ユイ「お釣り900円ですね。有難う御座いました、また来てくださいね」
<SE「店内SEフェードアウト>
<SE:店内に二人だけになる。少しの間>
022 ハヤミ「ユイさんは…」
023 ユイ「ん?」
024 ハヤミ「ユイさんはその…旦那さんとは何処で知り合ったんですか?」
025 ユイ「あたし? ん〜…そうねぇ。あの人とはココで知り合ったの」
026 ハヤミ「ココで?」
027 ユイ「そ。あたしがまだ高校の頃ね、年誤魔化してバイトしてたのよwその時のマスターが旦那でねー」
と、懐かしそうに言う。
028 ハヤミ「へぇ、そうだったんですか」
029 ユイ「卒業して結婚したまでは良かったんだけどね〜(苦笑)ほら、あの人どっか行っちゃったから」
030 ハヤミ「連絡とか…ないんですか?」
031 ユイ「ないわねぇ。あぁ…丁度10年前の今日ね。4月25日。あたしたち、喧嘩したのよ。くだらない事でね(苦笑)だから厭(あき)れて他の女のトコに行っちゃったのかも(笑)」
032 ハヤミ「そんな」
033 ユイ「きっとどっかでよろしくやってるわよw」
034 ハヤミ「…僕じゃ…」
035 ユイ「え?」
036 ハヤミ「僕じゃダメですか?」
037 ユイ「それ、って…。」
038 ハヤミ「前から好きだったんです。でもユイさんには旦那さんがいるから…。本当はずっと言わずにおこうって思ってたんです。でもっ」
039 ユイ「(遮って)ごめんなさい」
040 ハヤミ「ユイさん…」
041 ユイ「ごめんなさい…」
ユイ。ハヤミの顔を見ず、苦しそうな顔。
042 ハヤミ「……今日はもう…帰りますね。お金、ここに置いておきますから…」
ハヤミと入れ違いでてがみ屋が店に入ってくる」
<SE「カランカラ カランカラン/ドアベル>
<SE「パタン/ドア閉>
043 ユイ「(少しだけ顔をあげててがみ屋を見る)…いらっしゃいませ」
044 てがみ屋「失礼致します。ユイ様はコチラにいらっしゃいますでしょうか」
045 ユイ「え? わたし、ですけど…?」
046 てがみ屋「失礼致しました。ユイ様宛にお届ものが御座います(手紙を肩掛け鞄から取り出す)こちらに受け取りのサインをお願いできますでしょうか?」
047 ユイ「手紙…? あなたは?」
048 てがみ屋「申し遅れました。わたくしはてがみ屋で御座います。アキヒコ様からの手紙をお届けに参りました」
049 ユイ「アキヒコ、から…?」
驚きと戸惑いと困惑を隠せない。手紙を開けて読む。
050 アキヒコ「ユイ、元気にしてるか? 急にいなくなっちまってごめんな。いやぁ実はさ、ほら、もう10年くらい前か? 喧嘩した事あっただろ?お前のことだし、まぁ俺のことだから、きっと他の女のトコにいるんじゃないかとか思ってるのかなw本当はな、あの後お前と仲直りしようと思ったんだよ。ちょっとカッコつけて、お前が好きな花と一緒にとか思ってwwwwそんで山行ったら足滑らせて、うっかり死んじゃってさwwいや〜、自分でもホントびっくりwwww お前のこと、愛してたよ。ちゃんと愛してた。長い間待たせて、ごめん。厭(あき)れずに待ってくれて、ありがとう。もう十分だから。女の花が枯れる前に、新しい幸せ見つけてくれ。花の命は短いっていうだろ?wwじゃあ、俺の分までめいっぱい幸せにな」
051 ユイ「なによ、これ・・・」
052 てがみ屋「わたくしの説明の仕方が悪かったのでしょうか…? 申し訳(御座いませんでした。それは、ユイ様の旦那様であられるアキヒコ様からのお手紙で御座います。」
053 ユイ「なんでアンタがこんなの持ってるのよ・・・?」
054 てがみ屋「なんで、と申されましても、てがみ屋で御座いますので」
055 ユイ「てがみ屋だからってなんでこんなっ…。からかわないでっ」
056 てがみ屋「からかうだなんて、滅相も御座いません。強い想いはこの世に残る事が御座います。私どもは、それをこのような形でお届けしてるので御座います。これは間違いなく、10年前に亡くなられたアキヒコ様からのお手紙で御座いますよ」
057 ユイ「そんな…嘘よ…」
058 てがみ屋「(軽く溜息)困りましたね…。あぁ、そうでした」
鞄から花を取り出す。
059 てがみ屋「この花も一緒に渡すよう言われておりました」
1輪の花をユイに差し出す。
060 ユイ「この花…あたしが好きな…」
061 てがみ屋「(では、確かに)それでは失礼致します」
<SE「カランカラン/ドアベル>
062 ユイ「これを採りに…?(ずっと驚きが強かったが、段々と涙が溢れてくる)ホント、バカなんだから。今更・・・新しい恋なんて…」
もう一度手紙に目を落とす。
063 Mユイ「しわくちゃになった手紙と、受け取った花を見ていると、アキヒコの声が聞こえた気がした」
064 アキヒコ「もう、見つけてるだろ…?」
手紙が消えて蝶になる。
065 ユイ「え・・・?」
066 Mユイ「店内を見渡しても誰もいない。私だけ。私しかいない。不思議に思いながら手紙を見ると、もうそこに手紙はなかった。代わりにあったのは―――」
067 ユイ「あれ、手紙が・・・・・・・・・ちょう・・・ちょ? あ…待ってっ」
蝶を追いかけて店の外に走って出る。
068 Mユイ「手紙があった場所にいた蝶はひらひらと舞い上がって、わずかな窓の隙間から外へ逃げていってしまった」
<SE「雨音、パシャパシャと走る音>
069 ユイ「待って、待ってよっ(足がもつれて転ぶ。そのまま泣いてる)何でそんなに…最後の最後まで自分勝手なのよ…」
<SE「雨音が弱くなりフェードアウト>
<SE「ハヤミの足音>
070 ハヤミ「ユイ……さん?!(駆け寄る)どうしたんですか一体っ」
071 ユイ「ハヤミくん…」
072 ハヤミ「…あ…へへ(何となく気まずくて苦笑い)想ってる事、やっぱりちゃんと伝えたくて…戻ってきちゃいました。…ほら、これで拭いて下さい」
073 Mユイ「差し出されたハンカチには、一匹の蝶があしらわれていた。消えてしまった蝶と同じ…」
074 ユイ「これ…」
075 ハヤミ「え? ハンカチが…どうかしましたか?」
076 ユイ「………ううん。私も…私もあなたに伝えなくちゃいけない事が出来たの」
―end―



霞月楼名義でボイドラにしています。
良かったら聞いてね(*´ω`)




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